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見たもの、読んだもの、学んだものを つれづれ綴ります。ほぼ ひとりごと。

【ネタバレ注意】誰かの救いは誰かの絶望との等価交換なのか:『エクス・マキナ』

 このごろ映画観てねぇな、なんかよくないな、と思い立ったので、AmazonPrimeでひとまず1本。

 『エクス・マキナ』。SF、中でもアンドロイドやAI絡みの作品には比較的目が無いタチではあるが、そんなことより、これどうやって撮影したんだろうな、の興味が先に立つ作品である。身体の一部が透明な女性型アンドロイド。どうなってんだ、胴体。

 公式紹介文は次の通り。

検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社“ブルーブック”でプログラマーとして働くケイレブは、巨万の富を築きながらも普段は滅多に姿を現さない社長のネイサンが所有する山間の別荘に1週間滞在するチャンスを得る。
しかし、人里離れたその地に到着したケイレブを待っていたのは、美しい女性型ロボット“エヴァ”に搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能のテストに協力するという、興味深くも不可思議な実験だった・・・。

http://www.exmachina-movie.jp/index.html

 ブルーブック、という会社名のイケてない感が如何ともしがたいが、案外「アカデミー賞 視覚効果賞受賞(2016)」という大自慢が説明されない質素な紹介文である。奥ゆかしい。機械仕掛けの神の名を冠する「SFスリラー」が、さてどんなものかと期待して、いざ視聴開始。

 

 ※※※ ここからはネタバレを含みます ※※※

   

 登場人物はかなり限られる。

 社内抽選という謎多き制度で当選したエンジニア・ケイレブ。

 社長のわりに通常業務全然してなさそうなネイサン。髭がすごいので、たぶん逆さ絵。

 プラスチック越しの配線がかなりシンプルに見える、アンドロイドAVA。AVAと書いてエヴァ

 徳永英明ばりに 何も聞こえない何も話してくれない、キョーコ。

 以上4名が主たるメンツ。少ない。人里離れた研究施設、という舞台装置も相まって、クローズドサークルミステリの様相である。視聴側は探偵役さながらに深読みしまくりながら物語を追っていくことになる。

 エヴァが停電中を見計らって「ネイサンを信じてはいけない」と伝えてくるが、信じている視聴者は最初からいないと思う。男が1人で女性型アンドロイドを作っているという時点で察するものは余りあるのだが、引き篭もった天才がマッドでないはずがない。とはいえ、あんな凄まじい人工知能とアンドロイドを組み上げた割に、施設内のセキュリティはカードキーと監視カメラというローテク加減に、芯の通ってなさは感じるのだが。

 キョーコがアンドロイドであることは想定の範疇。急にネイサンと踊り始めた時は、むしろそんな機能を搭載する意味が分からないので人間なのかも、と思わされたのだが、最後まで見た後もこのシーンが何だったのか全く分からないので、きっとあそこは忘れていいんだと思う。

 ケイレブとエヴァが会話する部屋に最初からガラスのヒビ割れがあったことから、これまでのテストに何らかのトラブルがあったことは想定され、ケイレブ側がチューリングテストの被験者、つまり人工知能なのではないかというオチが頭をよぎってくる。しかしこれはお見事、ケイレブ自らがその疑念に襲われ、腕を傷つけ血を見ることで人間であることに安堵を感じるシーンが提示され、そのオチは棄却される。

 様々な可能性をあれこれ捏ねた上で、クライマックス。

 エヴァはケイレブの手引きで部屋からの脱出に成功。キレたネイサンがエヴァの腕を破壊し連れ戻そうとしたところでキョーコの反撃に遭う、までは考え得るところではあった。ロボット三原則とか無いのかよ、とは思ったけど。

 そこからは大どんでん返し。完全に想定の上を行かれた。

 いそいそと旧モデルから人工皮膚や洋服を調達したエヴァは、なんとケイレブを放って外へ。意図的に捨て置いたというより、抑圧からの解放感と外の世界への好奇心で、ケイレブのことをうっかりさっぱり忘れてしまった、という印象。せっかく履いた靴も脱いで、森の中を爽やかに歩く。彼女が人工知能であったとしても、生みの親の心臓にナイフを突き立てた直後であっても、自由であることの美しさが全てを塗り替えていく。ケイレブを迎えに来たはずのヘリコプターが、あっさりエヴァを乗せて去っていくところは、どうパイロットに説明したのか分からなかったけど。

 一方、エヴァがマスターキーカードを持っていってしまったので、ケイレブは泣けど喚けど部屋から出られない。ネイサンの謎セキュリティポリシーが災いし、ドアは強化ガラス、椅子を投げてもびくともしない。キッチンは別にあったから、そこに大した食糧なんて無いんだろう。顎殴られた後だし、痛いだろうし。ネットワークは通じていそうだが、それもマスターキーカードが無いとなんともならなそう。ケイレブ、詰みだ。

 エヴァはケイレブとネイサンを犠牲にして、新しい世界を手中に収めた。それがチューリングテスト当初からの計画だったのかは分からない。スッと街なかに馴染んで去っていくエヴァの姿に感じた言いようのない不気味さは、人工知能に対する人間の恐怖心そのものなのかもしれない。

 結論。面白かった。

 観ながらずっと「これってSFスリラー?」と思っていたが、最後の最後で、その意味が分かった。っていうか、それが一番のネタバレなんじゃないのか。

 さて、次は何見ようかな。