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見たもの、読んだもの、学んだものを つれづれ綴ります。ほぼ ひとりごと。

問36:まとめサイトへの転載(第30回知財検定1級コンテンツ)

 WELQを発端としたまとめサイト問題が噴出したのは2017年のこと。Googleの検索ロジックも変わった(らしい)ことで、一時よりも勢いがだいぶ削がれた気もするが、無断転載にまつわるあれこれは、インターネットがある限り、これからもイタチごっこなのだろうな、とは思わなくもない。

 という余計なことも頭をよぎるような時事問題。X社が独占利用許諾を得ていた著作物Aについて、Y社のまとめサイトに掲載されていることが発見されたらしい。  

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 まず肢ア。著作物AについてX社は、自社webサイトでの利用を許諾されているだけのライセンシーとしての立場である。EXCLUSIVEな契約だとて、はて、債権者代位権はあるのだろうか。判例があるようだ。平成13年(ワ)第12516号、東京地裁

ところで,著作権者から著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者につ
いては,著作権者に代位して当該著作物の著作権に基づく侵害差止請求権を行使することができるという見解が存在する。これは,特許権における独占的通常実施権者が特許権者に代位して特許権に基づく侵害差止請求権を行使することができるとの見解にならって提唱されているものと解されるが,著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者であれば,特許権における独占的通常実施権者と同様に,当該著作物の模倣品の販売等の侵害行為により直接自己の営業上の利益を害されることから,独占的使用権に基づく自らの利益を守るために,著作権者に代位して侵害者に対して著作権に基づく差止請求権を行使することを認める余地がないとはいえない。

(中略)

なお,仮に,原告とAの間の上記契約12条を,Aの著作権に基づく侵害
差止請求権を原告が行使することを認めた条項と解することができるとしても,そのように著作権に基づく差止請求権について著作権者が契約により他者に行使させることを認めることは,弁護士法72条において弁護士以外の者の法律事務の取扱いが禁じられ,信託法においても訴訟信託が禁止されていること(信託法11条),及び,著作権等管理事業法上,著作権等の管理事業を営もうとする団体が登録制とされて種々の義務を負うなど事業上一定の制約を受けるものとされていること等の法制度の趣旨に反するものといわざるを得ない。したがって,上記契約の条項を根拠に,Aから契約上その権限が付与されているとして,原告がAの著作権に基づく差止請求権を行使することも,認められない。
したがって,いずれにしても,原告がAの著作権に基づく差止請求権を行
使することは認められないというべきである。

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

 ……むず。

 まず、独占的利用許諾を得ている場合は、債権者代位権にもどつく損害賠償請求が「認める余地がないとはいえない」。認める!とも認めない!とも言っていないので玉虫色感が否めないが、場合によってはあり得るという余白を残しているというところなんだろう。後段では、契約上で差止請求権をライセンサーに行使させることは、弁護士法とか信託法とかの趣旨からするとNGと。なんだ、結局ダメなんじゃん。

 上記判例に基づくとすれば、肢アは不適切。いや、正確には「適切であるとはいえない」くらいでしょうかね。

 次に肢イ。こちらは、先の判例からすると「認める余地がないとはいえない」わけだから、「一切できない」とバッサリ言い切れはしない。なので、不適切。なんだかちょっと、日本語の言い方の問題だけだから、ファジーだけども。

 続いて肢ウ。Y社が実は著作権者から正規の許諾を受けていた場合。X社がむしろ被害者のパターンである。独占したつもりが反故にされたことを、契約相手である著作権者へ殴りかかることはできても、Y社は不法行為を行っているでもなし、差止請求はできない。そもそも独占許諾であったとしても、肢イの通りぼんやりした認められ方なのだし。マークシートではウを塗りつぶすことにする。

 最後に確認と復習のための、肢エのチェック。出所がX社サイトであることを明記しているからといって、それだけで引用の要件は満たさない。まとめサイト側での表示のされ方が分からないが、X社としてのオリジナル部分も引き写しているようであれば、著作物Aのみならず、X社サイトとしての権利行使もできるのではないだろうか。なので、肢エは、適切ではない。

 まとめサイト、ニュースのインデックスとしては、まぁ確かにある程度は便利だったりもするけれど、クリエイターにタダ働きさせてまでのものでは、きっとない。0を1にした人に敬意を払うビジネスモデルであってほしいものだ。

 

問5:キャラクターのスマホアプリ化(第30回知財検定1級コンテンツ)

 広告代理店Xは、Y社のお菓子の広告キャンペーンとして、イメージキャラクターAを使ったスマホアプリを公開することにした。キャンペーン用のアプリって、そうそうダウンロードしないし、落としたとしても、さらっと1回やったらもう削除するイメージだけども、今日日、効果ってあるんだろうか? ROIが気になるが、今回の問いはキャンペーンの効果検証ではないので、法的観点に絞って考えるとしよう。

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 まずは肢ア。キャラクターAは、アプリアイコンにも登場しないし、AppStore/GooglePlayでの機能説明にも使われていないと。なんだ、その謎仕様。本当に広告キャンペーンなのだろうか。意味はよく分からないがともかく、スマホでアプリを起動した後にしか出てこないらしい。それで、キャラクターAを送信可能化したことになるかどうか、という話。「送信可能化」とは何か、を浚うとしよう。

 著作権法では、2条の定義シリーズに、送信可能化について述べられている。

九の五

送信可能化

次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号及び第四十七条の五第一項第一号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

  ……これ、読んで理解できる人いるのだろうか。もはやどこまでが一文なのか分からない文章だが、要するに、イはサーバにアップすること、ロはサーバをインターネットに繋ぐこと。アプリをサーバにアップして公開したのだから、送信可能化したことにあたる。なので、肢アは不適切。はい、次。

 次に肢イ。キャラクターA、実は喋れる設定らしい。声は声優 丁が担当。スマホアプリでは、ユーザと擬似的に会話できる機能があるとのこと、その場合 丁は実演家にあたるか。

 おそらくセリフ単位で細切れに事前に収録しているものが、プログラムによって順不同で流れる、というだけだから、普通に「実演」の範囲を逸脱しないように思えるのだが、意外と根拠を探すのが難しい。最終的なエンドユーザへの提供形式はスマホアプリだけども、収録現場で何らかの媒体に音が固定されたものと考えれば、レコードということでいいのかな。これはちょっと、自信ない。著作権法でいう「レコード」は、あの丸くて穴の空いた、針を落とすやつのことだけではない、ということだけは確かだ。

なお、著作権の世界で「放送」とは、「無線放送」(番組が常に受信者の手元まで届いているような送信形態)のことを意味しており、「レコード」とは、磁気テープ、レコード盤、CD、DVD、ハードディスクなどの媒体を問わず、「音が固定されたもの」を意味します。

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/outline/5.html

 もしくは、キャラクターと一緒にエンドユーザからは見えるのだから、映画類似の著作物、だろうか。今回のスマホアプリの会話機能のように、インタラクティブな要素のあるロールプレイングゲームについて、映画類似の著作として認めた最高裁判例がある。事件番号平成13(受)952等。

本件各ゲームソフトは,それぞれ,CD-ROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが,ディスプレイの画面上の指定された位置に順次表示されることによって,全体が動きのある連続的な影像となって表現されるものである。本件各ゲームソフトは,コンピュータ・グラフィックスを駆使するなどして,動画の影像もリアルな連続的な動きを持ったものであり,影像に連動された効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており,アニメーション映画の技法を使用して,創作的に表現されている。なお,本件各ゲームソフトを使用する場合に,ディスプレイの画面上に表示される動画影像及びスピーカーから発せられる音声は,ゲームの進行に伴ってプレイヤーが行うコントローラの操作内容によって変化し,各操作ごとに具体的内容が異なるが,プログラムによってあらかじめ設定される範囲のものである。

(中略)

3 原判決が適法に確定した事実関係の下においては,本件各ゲームソフトが,著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条1項7号所定の「映画の著作物」に当たるとした原審の判断は,正当として是認することができる。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/335/052335_hanrei.pdf

  今回のスマホアプリが、ゲームソフトのように「映画の著作物」にあたるのだとしたら、声優 丁は、映画でいう役者と同じ立ち位置になるので、実演家と言える。ただちょっと、物に固定されていると言い切っていいかどうかに、若干の不安は残るけども。

 なので、肢イは、いずれにしろ「実演家には該当しない」とまで言い切れはしないから、不適切ぎみ。かな。

 調べていてふと思ったのは、最近のゲーム音楽は既に、ユーザのプレイに応じて動的に変化するレベルにまで到達しているということ。『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』は、まさにインタラクティブミュージックと呼ぶにふさわしい出来だ。著作権法が掲げる「固定」という概念そのものに、もはや限界が来ているように感じる。最強任天堂法務部が、何年か後に訴訟に打って出れば判例が作られるのかもしれない。

 インタラクティブミュージックについては、この記事がおもしろかったよ。

 さて、肢ウ。このスマホアプリでは、キャラクターAと一緒に写真が撮れる合成機能もついている。キャラクターAの、だいぶ濃いファン向けの機能だ。おじさんたちが会議室で「インスタ映えを狙うべきだ」とか言っている様が目に浮かぶ。この合成写真を、第三者がコピーやアップロードを行った時に、X社は差止/損害賠償請求できるか。実務上は、利用規約に書いておけばいいだけじゃないか、という気がしてならないが、何にも書いてなかったテイで考えよう。

 キャラクターAとの合成写真は、キャラクターAの造形そのものをいじりにいくわけではないが、キャラクターAの二次的著作物と言えるだろう。以下、著作権法2条の定義シリーズより。

十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

 どれかな、「その他翻案」かな。その場合、キャラクターAに対する原著作者X社と、それを使って写真を撮った二次的著作者であるユーザ、2人の権利者が発生し、合成写真についての著作者はユーザになる。本肢で問題になっているのは、合成写真の方であるから、次の条文があてはまる。

第二十八条

二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

  ユーザが撮った合成写真に対し、原著作者であるX社はユーザと同じ権利を持つので、X社は単独で差止/損害賠償請求を行うことができる。従って、肢ウは適切。マークシートに埋めるべきは、ウとなる。

  やれやれ、スマートフォンが浸透したと思ったら、次はIoTだのAIだのがやってくる。知財に関わる人は、大変だ。

問39:海賊版対策(第30回知財検定1級コンテンツ)

 項目名が伏せられたグラフを見ながら、答える問題。考えても無駄な知識問題と言えよう。こうなったら、本物を引っ張ってくるのが、一番早い。元データはこちら。

 

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出展:模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告(2017年版)をとりまとめました(METI/経済産業省) 

 映像制作会社の企画部に勤める甲と、知的財産部の乙が、このグラフを見ながら会話をしている、という設定だが、甲と乙が見ているものも、項目名が伏せられているものらしく、甲が「1番目と2番目に多いものはなんですか」と聞いているのが肢ア。状況がだいぶ謎である。

 上記本物のデータを見れば一目瞭然ではあるが、乙が「1番多いのは著作権、2番目は商標権です」と言っているので、肢アは不適切。マークシートにはアを塗りつぶせばよし。

 ちなみに、乙が触れている2004年から2016年について、年次報告では

また、2016年単年で見た場合には、「商標権」が全体の52.9%占めており、わずかに増加しています。構成に大きな変化は見られません。

http://www.meti.go.jp/press/2017/06/20170623001/20170623001-2.pdf

 とされており、後段では適切なことを言っている。おしいぞ、乙。

 肢イ。税関での差止について。同年次報告によると、実績は以下の通り。

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 一番多いのが、圧倒的に商標権に関するもの。なんと98.2%。あとはどんぐりの背比べ感が否めないが、2番目は著作権。乙は正しいことを述べているので、肢イは適切。特許権の前年比がすさまじいことになっているが、絶対値が少なすぎるだけだろう。

 最後の肢ウ。ヒットしそうなコンテンツを作っても海賊版が出回るために収益が伸びないと嘆く甲に対し、乙が、自社単独では限界があるので、業界団体を通じて協議申立制度の利用検討を申し出る。

 はて、それは何だ。

 先程の年次報告には、次のようにある。

海外侵害状況調査制度は、2004年12月、模倣品・海賊版対策関係省庁連絡会議において創設が決定された政府模倣品・海賊版対策総合窓口の機能の一つであり、外国政府の制度や運用面に問題があり、日本企業の知的財産権が適切に保護されていない場合に、企業または業界団体等からの申立てを受けて侵害相手国の制度等を調査し、必要に応じて政府間協議や世界貿易機構(WTO)などの国際的な枠組みを活用して問題の解決を図る制度です。
<制度の流れ>
○日本国内の企業または業界団体等が侵害に関する必要な証拠と共に政府模倣品・海賊版対策総合窓口に申立を行う。
○政府は、調査を実施するか否かを原則45日以内に決定し、調査を実施する場合は、その調査結果を原則6ヶ月以内に申立者に回答する。
○調査の結果、問題があると判断された場合は、二国間協議等の問題解決に向けた取組を実施する。

http://www.meti.go.jp/press/2017/06/20170623001/20170623001-2.pdf

  映像関係でいうと、日本動画協会と日本映像ソフト協会からの申立により、あれこれ日本政府から働きかけた結果、マレーシアで正規版ホログラムシールの許可情報がインターネットで公開されるようになった、のだそう。へぇ。というわけで、肢ウも適切。

 こういうレポートにもアンテナ張らないといけないのか、大変だ。

問24:野外フェス(第30回知財検定1級コンテンツ)

 ライブにはたまに行くが、フェスというやつには、行ったことがない。だって暑そうだし。なんかあっちこっちのステージを行き来したりとか、いまいちシステムが分からん。でも問題には出れば仕方ない、取り組むことにしよう。

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 甲はシンガーソングライター。X社という芸能事務所に所属している。楽曲Aは甲が作詞作曲し、レコード会社Yから発売されたもの。みなさんは自分が想像しやすいアーティストに当てはめて考えてください。時は2017年、甲がY社が主催する野外フェスに出演したところから話は始まる。

 肢ア。フェス会場で、甲の弾き語りをスマホで撮ってSNSに上げた客がいたらしい。けしからん。甲は著作者であり実演家である。甲は自身の楽曲とパフォーマンスについて、インターネットへの公開の権利を持っている。著作権法上の根拠はこのへん。

第二十三条

著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

第九十二条の二

実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。 

  だが、諸々煩わしいのか、甲はY社に差止をしてもらおうと思っているようだ。まぁアーティストは世間のイメージってのもありますしね。Y社は楽曲Aのレコード会社であるから、著作権法上でいうところの、レコード製作者だ。

第九十六条の二

レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。 

  Y社はY社として、リリースした楽曲Aのレコード原盤に対する権利をたしかに持っている。が、今回ややこしいのは甲が弾き語りしていることだ。Y社を通じて発売した音源そのものではない。Y社は、楽曲Aの原盤に対してしか権利を持っていないので、ライブ弾き語りバージョンには何も口を出せないのだ。

 クリエイター向け著作権講座的なwebページにも、以下のような記事があった。

また、原盤権の処理が必要となるのは、原盤、つまり市販されているCDや配信されている音源そのものを利用する場合に限られ、こういった音源を使わずに、例えば弾き語りで演奏したり余興バンドでコピー演奏したりするような場合も不要となります。

専門家に学ぶ!クリエイターのための著作権講座 第8回「音楽の著作権―実践編」

 Y社のレコード製作者としての立場からは、勝手にアップされたものを差し止めることができない。従って、肢アは不適切。

 続いて肢イ。このフェスは、全国の映画館へのライブビューイングが行われた。涼しいところでフカフカの椅子に座り、ポップコーンつまみながらライブを見られるとは、便利な時代になったものだ。フェスらしさとは、と思わなくもないが。そしてなんだ、甲の客は盗撮してアップロードするやつばっかだな。

 前述92条の2で、実演家には送信可能化権が認められているから、差止はできる。

第百十二条

著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

 いまは、このイが正解、つまり最も適切なんだろうと分かっているのだけど、どうも、気持ちが悪い。モヤモヤの原因は、92条の2の、2項だ。

第九十二条の二

2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。

一 第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録画されている実演
二 第九十一条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの

  噂の91条は次の通り。

第九十一条

実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。

2 前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾(第百三条において準用する第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。以下この節及び次節において同じ。)を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。

 カッコが多いし途中で除きだすので文面が入り組んでいるが、簡素化すると、「実演家の許諾を得て映画の著作物において録音・録画された実演については、適用しない」となる。むずい。東京行政書士会のみなさんが翻訳すると、以下のようになる。

また、俳優や背景音楽の演奏家などの実演家も送信可能化権を有していますが、一旦実演家の許諾を得て録音・録画された映画については、送信可能化権を行使できないことが著作権法に定められています(これをワンチャンス主義といい、例外としてサントラ盤レコードを作成する場合があります)。したがって、実演家の許諾は必要ありません(第92条の2第2項)。

業務のご案内〜知的財産権・知的資産 | 東京都行政書士会

 仮にライブビューイング映像の著作権をY社が持っているとして、甲はY社に1回OKを出しているので、Y社が実施する送信可能化には以後文句は言えない。ワンチャンス主義。

 ああ、そうか、Y社にはもう何も言えないけど、そもそも許可してない盗撮野郎には、専有している送信可能化権で「NO!」って言えるってことか。Y社に実演家としての送信可能化権を譲り渡したわけではないのだから。……あんまり自信ないけど、一旦そういうことで自分を納得させとこう。著作隣接権はややこしいから、また勉強だな。

 最後に肢ウ、さらっと行こう。Y社はライブをCD化するようだ。発売予定は2018年秋。甲は楽曲Aの著作権者としてではなく、実演家としての権利存続期間を気にしている。なかなか権利関係に敏感なタイプのアーティストである。

 まずは、どこが保護期間のスタート地点となるか。

第百一条

著作隣接権の存続期間は、次の各号に掲げる時に始まる。

一 実演に関しては、その実演を行つた時
二 レコードに関しては、その音を最初に固定した時
三 放送に関しては、その放送を行つた時
四  有線放送に関しては、その有線放送を行つた時

  今回は、フェスでの弾き語りをCD化するのだから、実演を行った時は2017年のフェス当日が起算点となる。甲の相談相手であるX社法務部の乙くんは「CDの発行が行われた日の属する年の翌年から起算」と小難しく言ってるのに間違ってるので、肢ウは不適切。

 ちなみに、存続期間の終点については次の通り。同101条2項。

2 著作隣接権の存続期間は、次に掲げる時をもつて満了する。

一 実演に関しては、その実演が行われた日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した時
二 レコードに関しては、その発行が行われた日の属する年の翌年から起算して五十年(その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して五十年を経過する時までの間に発行されなかつたときは、その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して五十年)を経過した時
三 放送に関しては、その放送が行われた日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した時
四 有線放送に関しては、その放送が行われた日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した時

 ライブCDに関する甲の実演家としての保護期間は、フェス当日〜2067年12月31日までということになる。「属する年の翌年から50年」と言われると、単純に2018+50=2068としたくなるが、「50年間」であるので、1引くのを忘れずに。実演が年明けすぐの出番だったら、ちょっとお得。

  ふぅ、短い問題のわりに、難しかったな。フェスなんて絶対行かない。

 

問30:ソフトウェア開発の下請け(第30回知財検定1級コンテンツ)

 たまにtwitterなどでソフトウェアエンジニア業界の魂の叫びのようなものが噴出してくることがある。いつの間にか大喜利化していくので楽しくなってきてしまうが、やれ何次請けだの、やれ今日も誰かが来なくなっただの、エンジニアにとってこの国は生き辛いようだ。

 さて本問。X社が、社内で使うソフトウェアの開発をY社に委託した。内容的には、請負契約。

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 ……絵にするまでもなかったな。

 契約書にあまり内容が無かったのか、民法上の原則に従って以下検討をしろとある。民法は2020年に大幅改正の施行を控えているが、ここでは2018年1月1日現在のものを前提とする。請負関係は632条以降、委任については643条以降。

 肢ア。出た、善管注意義務。なんとなく語呂がいい民法用語でおなじみ、善管注意義務。委任については以下の条文がある。

第六百四十三条

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

第六百四十四条

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

  シンプル。ただ、本問の前提は「請負契約」である。請負のほうを見てみよう。

第六百三十二条

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 似たように見えるが、請負は「仕事の完成」が求められるのに対し、委任は「行為をすること」が対象となっているところが違う。委任は、やればいいので、結果まで必要ではないが、請負の場合はとにもかくにも結果を出さねばならない。「こんだけがんばったんすけど、できなかったすわー」が請負契約の場合は許されないのである。ソフトウェアが仕上がっていなければ、善良だろうが性悪だろうが、債務は不履行だ。なので、肢アは不適切。社会は厳しいね。

 1コ飛ばして、肢ウ。X社の「ここをこうしろ」という指示が原因で発生した瑕疵に対し、Y社が「んなわけねぇだろ素人め、バーカ」と知っていたのに黙って従っていた場合の、瑕疵担保責任について。なにこのプロジェクト、しんどそう。仲悪い。

 ヒトがこの世に誕生して数千年、こういう事態は頻発してきたのだろう。民法ではそのものズバリといっても過言ではない条文が用意されている。

第六百三十六条

前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

 よって、請負人Y社は瑕疵担保責任を負う。なので、肢ウは不適切。「それはちょっと、大変なことになりますよ」と勇気を持って指摘をしよう。頭の中でボコボコにするのは許す。

 肢エでは、Y社がまだ仕事を完成しない間に、X社が急に契約解除を企てる。どうした。しかし民法は、なかなかに請負者に厳しい。

第六百四十一条

請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。 

  いつでも解除だ。どこでもドアならワクワクするが、いつでも解除は寒気しかしない。ただ、Y社はさすがに、損害賠償は求めることができる。これまでかかった経費、雇ってしまった人件費、得られるはずだった利益、失ったものを数えると絶望しか湧かないが、X社はどこまで払ってくれるのだろうか。弁護士さんのブログ記事によると、こんな感じらしい。

かような場合につき,判例は,請負人の受けられる賠償の範囲を広く認めています(東京高裁昭和60年5月28日判決等)。請負人保護のために,契約解消と因果関係のある全損害に及ぶとするのが通常です。

 請負人は,自分の工事には何らのミスがないのに,注文者側の一方的事情により工事中途で解除されるのですから,これによって,材料費や人工代等の実費といえる直接的損害の賠償を請求することは当然できます

 そして,それを超えて,工事完成により得べかりし利益も損害として請求できるものとしています。判例では,得べかりし利益として,工事費用の5バーセントを認容しています。

 もっとも,解除によって,請負人が逆の利益を得ている場合には,「損益相殺」として,その部分は賠償額から控除されます。

注文者からの請負契約の解除(法律質問箱)−弁護士法人相模原法律事務所

  5%。5%ね。まぁ、無いよりましか。

 というわけで、Y社の損害はY社で呑めという鬼畜のような肢エは不適切。

 最後に肢イ。先に言えば、これが正解である。X社が報酬を払う、その義務と対になるY社の義務は何かと。民法に沿うと、次のようになる。

第六百三十三条

報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。 

  今回は、ソフトウェアの引渡しが請負契約の中身になっているので、報酬支払義務と同時履行の関係にたつのは、仕事の目的物となっているソフトウェアの引渡し義務であるといえそうだ。

 ただなんとなく、「仕事を完成する義務ではない」という問題文の言い方が、気にかかる。仕事を完成しないと目的物は出来上がらないわけだけども、途中でもいいと言いたいのか? それとも物の引渡しを要しないとき、のことを引っ掛けにきてるのだろうか。準用対象となっている規定は次の通り。

第六百二十四条

労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

 物の引渡しが目的でないときは、仕事の完成をもって報酬を請求する権利が発生すると。今回は前述の通り、引渡しがある契約なので、マークシートはイを塗りつぶして次の問題にいこう。

 ちなみに、ソフトウェア業界ではないが、以下のようなブログ記事もあった。

(2)請負代金の支払時期
 請負契約の目的はある一定の仕事を完成させることにありますから、請負人の報酬(請負代金)は、あくまで仕事を完成した後に、その引渡しと引き換えに支払われる(後払い)のが原則です(民法633条)。従って、請負人は代金の支払いがあるまでは、完成した仕事の引渡しを拒む権利(留置権)があります。ただし、建設工事の請負の場合には、契約時に3分の1、上棟時に3分の1、引渡し時に3分の1、という代金の支払方法も多く行われています。

請負契約のポイント | 法律Q&A | ビジネスQ&A | 東京都港区法律事務所 ロア・ユナイテッド法律事務所

 完成したところで一括で精算せずに、3STEPで支払っていくと。業界ごとに、いろいろあるんですな。

 

問21:著作物性つれづれ(第30回知財検定1級コンテンツ)

 新入社員の甲さんに対して、たかだか3年目の乙さんが、先輩風吹かせまくる物語。「その通りだよ」とか偉そうに言っちゃう乙先輩だが、4つの選択肢のうち適切なのは1つだけ。75%は不適切という、なかなかのポンコツっぷりである。甲さんには、人を見極める目を、早く身につけてほしいものだ。

 肢アは、駅前によくある証明写真機で撮った写真は、著作物になるか。乙先輩は被写体となる人の個性が表れていればいい、例えば不敵な笑みを浮かべたり、などと おととい来やがれクラスのよく分からないことを言っており、考えるまでもなく不適切だが、提示されている問い自体は、まさに専門家たちが議論している最先端の検討課題である。

 現行法上は、著作物の定義は以下である。

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(著作権法第2条1項1) 

  現在、コンピュータや機械に「思想又は感情」があるとは考えられていないので、証明写真機くんで撮った写真が、どんなカメラマンが撮ったものより写りが良くても、それは著作物とは扱われない。

 しかし、人工知能と呼ばれるプログラムは、日々進化を遂げており、チェスや将棋で人間を打ち負かすのはもちろん、絵画を描くものまで現れはじめた。創作が人間の専売特許でなくなる日は近い。来たる時に備え、準備を整えなくては。以下のブログ記事は2年前くらいのものだが、勉強になった。

人工知能(AI)が作ったコンテンツの著作権は誰のものになるのか? | STORIA法律事務所

 さて、続いて肢イ。わざわざ「独特の筆致で」とそれらしいことを自分で言っているのに、著作物性を否定していく乙先輩。あれかな、何かと「NO」って言っていきたい時期なのかな。不良がカッコよく思える時代かな。急に髪染めてきちゃう感じかな。書道作品については、以下のように述べた判例がある。東京高裁平成11年(ネ)5641号。

書は,一般に,文字及び書体の選択,文字の形,太細,方向,大きさ,全体の配置と構成,墨の濃淡と潤渇(にじみ,かすれを含む。以下,同じ。)などの表現形式を通じて,文字の形の独創性,線の美しさと微妙さ,文字群と余白の構成美,運筆の緩急と抑揚,墨色の冴えと変化,筆の勢い,ひいては作者の精神性までをも見る者に感得させる造形芸術であるとされている。

https://www.jpaa.or.jp/old/activity/publication/patent/patent-library/patent-lib/200309/jpaapatent200309_005-010.pdf

 法曹の大変なところは、「書の芸術性」のような極めてぼんやりしたものを、ここまで言語化しなければいけないところだと思う。「(にじみ,かすれを含む。以下,同じ。)」のあたり、よく頑張った、としか言いようがない。お疲れさまです。

 続いて、肢ウ。短い言葉の表現の場合に、著作物性が認められるかという話。「カブトムシ」がaikoの著作物になったら観察日記も書けなくなってしまうし、「制服のマネキン」が秋元康の著作物になったらアパレル業界は会話がしにくくなってしまう。書籍の題号(タイトル)については、『時効の管理』という作品について争われた判例がある。大阪高裁平成20年(ネ)第1700号。

「時効」は時効に関する法律問題を論じる際に不可避の法令用語であり、「管理」は日常よく使用されて民法上も用いられている用語であり、「時効の管理」という表現はこの2語の間に助詞である「の」を挟んで組み合わせた僅か5文字の表現であり、控訴人書籍Aの発刊以前から時効に関する法律問題を論じる際に「消滅時効の管理」・「時効管理」といった表現が用いられていたものであるから、「時効の管理」はこれを全体として見てもありふれた表現であるというべきである上、「時効の管理」という表現が「時効について権利義務の一方当事者が主体的にこれを管理しコントロールすべきであるとの視点から再認識した思想」を表現したとまでは理解できず、単に「時効を管理する」という事物ないし事実状態を表現しているとしか理解できないのであって、「時効の管理」という表現は思想又は感情を創作的に表現したものと認められない。

日本ユニ著作権センター/判例全文・2008/10/08b 

 要は、よくある単語+「の」+よくある単語=ありふれた表現 ということ。

 とはいえ、新しいアイデアとはたいてい既知のアイデアの組み合わせであって、それを思いつくかどうかにこそ、クリエイターと一般人の明らかな違いがある。ある程度一般的な単語を使わなければ大衆には伝わらないわけだし。心情的には認めてあげたい、とは思えど、著作権法はアイデアを保護するものではないし、ありふれた表現に著作権が認められてしまったら、『幽遊白書』の禁句の回(使った文字が使えなくなるやつ)みたいな世界になってしまうわけで。なんとなく気持ちは落ち着かないが、乙先輩が初めて適切なことを言っているので、とにかくマークシートのウは塗りつぶしておくことにしよう。

 最後に肢エ。最近の書籍は、どうもタイトルが長い。ライトノベルは特に。そろそろラノベタイトルの著作物性を争うような裁判があるのかもしれないけども、ここでは俳句が書籍タイトルになった時の場合。俳句についてハッキリ述べた判例がひっかからなかったけども、以下のようなブログ記事があった。

2つめの参考裁判は、前回の記事でも取り上げた「交通標語類似事件」です。こちらの東京高等裁判所での判決文において以下のような記載があります(東京高裁 平成13年(ネ)第3427号)。

(東京高裁)

「~俳句に準じるような創作的な表現であれば、例外的に著作物性が認められることもあるであろう~」

これは、俳句は創作的な表現であると判示していると読めますので、これらを総合的に考慮すると、俳句には著作権が発生すると考えてよいと思います。

俳句の著作権 ~俳句添削事件~ | 著作権 侵害・違反を考える

  そもそも先の『時効の管理』事件においては、書籍のタイトルだからではなく、その5文字が「ありふれた表現」であったがために著作物性が認められなかったのだから、俳句に著作物性が認められるのであれば、それがタイトルになったところで、著作物性が否定されるものではないと考えられる。

 短い言葉に思想や感情を詰め込む方が難易度が遥かに高いのだけどなぁ、と思いながら、『ONE PIECE』を検索したら洋服のワンピースがいっぱい引っかかってきた画面にイライラする、暑い夏の1日であった。